2023
椎木彩子「216の苗のともだちを運ぶ鳥」
はじまりの美術館(フェスティバル期間中のみ展示) / 猪苗代小学校(常設)
アクリル絵の具
あじわう
猪苗代小学校体育館に常設
はぐくむ
「216の苗のともだち」ができるまで by 椎木彩子
6月
新宿から猪苗代まで高速バスで下調べに向かう。
猪苗代駅から自転車ではじまりの美術館へ行き、展覧会を見て、向かいのお蕎麦屋さんの〈しおやぐら〉さんの玄関口にある花を眺める。
女将さんが出てきて私に話しかける。
「綺麗な花でしょ。この辺りの花は私が植えたんじゃないの、鳥が種を食べてさ、糞をしてさ、そうして根付いた花は強いの」
この話を聞いて、統廃合される3校の子どもたちの状況と「鳥と移動」というイメージの重なりが私の中で強くなった。
7月
それぞれ違うものが集まって移動するイメージから、猪苗代にある木材屋さんを調べることになった。
猪苗代の方々の協力を得て、3つの場所に車で向かう。1つ目は〈ルーツ猪苗代〉さん。イメージに合う木端がたくさんあった。2つ目は〈国分木材〉さん。木の皮がついた杉やカラマツなど面白い木がたくさんあった。最後は中ノ沢こけしを作っている柿崎さんの工房。みずのきという木で、こけし用に加工された面白い形の木端(こっぱ)があった。みずのきは水分量が多く、取り除く作業に月日がかかるという話も聞く。手作業の美しさや尊さを垣間見る。
結果的にこの3つの場所から木端をいただいて子どもたちに描いてもらうことになる。
8月
子どもたちに描いてもらう絵のテーマを〈種〉にするか〈苗〉にするか悩む。鳥が実際運ぶのは〈種〉だけれど、子どもたち自身を投影するのは「植物の子ども時代」である〈苗〉だ。今回のプロジェクトは子どもたちの今を作品に残し、育てていくことが大切だと思ったので、〈苗〉がいいと思っていたら、猪苗代の地名に〈苗〉という字が入っていることに気づいた。〈苗〉に決めた。
9月
吾妻小学校で木端に苗のともだちを描くワークショップを行う。1コマの授業内なので駆け足で、てんやわんやだったけれど、1〜6年生の子どもたちが描いた苗はどれもそれぞれ瑞々しい感性の絵だった。悩んでしまって筆が進まない子には「そのともだちとどんな風に遊んでみたい?」と問いかけると、「〇〇!」と答えて描き進めていた。
その夜、猪苗代の方々との食事の席で、農家の方が「なぜ絵のテーマを種ではなく、苗にしたんですか? それがとても良かったと僕は思うんです」と話してくれた。「農業にとって、種を蒔くことももちろん大事なんですけど苗時代がその後の野菜にとってとっても大事なんですよ」と続けた。「人間も子ども時代の経験が大人になった後の長い時間を支えてくれるから、同じですね」とお互いに確かめ合った。
10月
猪苗代小学校・長瀬小学校でもワークショップを行う。1回目のワークショップの振り返りを活かし、しっかりお話をする時間をとった。「苗=植物の子ども。君たちと同じ子どもです。自分のような苗を描いてみよう!」と話す。また、「今この時間が君たちにとって大切で、はみ出したとか、失敗したとかは今日の授業では全部忘れて描いてくれたら嬉しい」とも声をかけた。
それぞれの子どもたちの分身が生まれた。
その次の日に、木片を並べ、作品を見立てる。大きな2羽の鳥と、風のイメージが立ち上がる。
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作品制作に参加したみんなの感想
椎木彩子がワークショップを開催したのは、吾妻小、長瀬小、猪苗代小。この3校は2024年度から統合され、猪苗代小学校となった。
木に絵をかくことがたのしかった。吾妻小1年
かっこいいのができた。吾妻小2年
自分の苗をかくワークショップをやって楽しかったです。吾妻小2年
かぎられたふでや色をつかうのはすこしきびしかったけれど、絵の具でかくきかいはそんなにないからうれしかったです。吾妻小4年
自分の苗をかいて、自分の味方ができたみたいでとても楽しかったです。吾妻小5年
生き物をじみちに考えて、青の色を利用してかきました。生きているように工夫しました。吾妻小5年
絵にいろいろな気持ちをこめてかくとうまくかけることがわかりました。吾妻小5年
自分を苗にして表現することができてよかったです。吾妻小6年
わたしはなわとびの苗をかきました。長瀬小1年
木の形をみて何をかこうか、そうぞうするのがたのしかった。長瀬小3年
ぼくはクラゲが好きだったので、クラゲの苗をかきました。ちゃんと上手にかけるかなと思ってたけど、いい感じにできてよかったです。長瀬小4年
もしも本当に自分の苗があったら、家のげんかんで大切に育てたいです。長瀬小4年
わたしの好きなバスケのリングがかけてうれしかったです。長瀬小4年
さいしょは余りものの木で「え〜」って思っていたけれど、助言を受けて見方が変わり、とても楽しかった! 長瀬小5年
椎木さんに教えてもらった「失敗しても新しいデザインになる」ということが印象に残っています。長瀬小6年
いつもしっぱいしないように思っているけど、苗をかいたときはしっぱいなど気にせず、できて楽しかったです。猪苗代小5年
自分でかいた絵が大きな作品になってびっくりしました。猪苗代小6年
これからも自分らしくいたいという願いから「オリジナルの苗」をかきました。彩子さんも自分の苗を生き生きと成長させてください。猪苗代小6年
はじまりの美術館へも行きました。近くで見ると一人一人の絵がよく見れました。猪苗代小6年
完成した絵がとてもきれいで美しかったです。いろんな苗が鳥の羽になっていてとてもよかったです。猪苗代小6年
ぼくたちがかいた絵を2つの鳥の絵の中にかざっていただきありがとうございます。絵の中に自分の作品をいつも探しています。猪苗代小6年
自分の苗ってこれなんだ、と初めて思えました。猪苗代小6年